A まとめとして初診時からメインテナンスまでを並べてみます。
ブラッシングで歯肉の性状が変化したとき、ここが「1歯1回で麻酔をしないで深~いポケットをルートプレーニングを始める」タイミングです。
急性期にはいかにブラッシングを徹底するか、がポイントです。患者さんにいかに「その気」になってもらうか(モチベーション)そしてそれをいかに持続できるか、デンタルスタッフ総力あげた力のみせどころなのです。
臼歯部にもかかわらず咬合調整はしていませんが、歯間離開が閉じました。
「不良肉芽」をとらず根面を滑沢にできる技術がポイントです。
クレーター状に陥凹していた歯肉がせり上がり、歯間乳頭が形成されました。
この間、プラークコントロールは困難ではありますが、歯肉のクリーピングの妨げとなる歯間ブラシの使用は禁忌です。
歯周組織が安定しているメインテナンスにおいては「磨きすぎ」は禁物なのです。
A: 11月19日記事症例の経過観察より。この症例におけるKey Toothは右下犬歯で、歯列の連続性の維持はここを確実にメインテナンスできるかどうかにかかっています。犬歯遠心の歯肉の位置にご注目ください。10年の間にクリーピングしています。
歯肉は居心地の良い位置で安定しますが、メインテナンス期に必要なブラッシングは、急性炎症を消褪させるために必要なブラッシングとは異なり、オーバーブラッシングは要注意です。適切な圧や方向は歯肉の変化を観察することで確認します。歯間ブラシの使用は、クリーピングの可能性をなくしてしまう怒れもあることから、できることなら歯ブラシ一本で確実にプラークを落とせるようにしたいものです。
N編集長が、デンタルハイジーンに数年前に掲載されていた解説を教えてくれました。
「歯肉がからっと乾いた感じになったとき、、、」なんていう私の感覚的でしかない答えをなんと端的に科学的に言い表しているのでしょうか。アンダーラインを丸暗記して次回からはさらっといえるようにしたらきっと自分のアホぶりが隠せるに違いないと思いました。
歯科衛生士向け雑誌として読みやすいビジュアルな誌面ながら、重要な項目はちゃあんと網羅している「デンタルハイジーン」恐るべし!
(TDC卒研後、いくつか質問をいただきましたので順にお答えします)
A: 私たちが大切にしているルートプレーニング
1.プロービングデプスの深さには無関係に
2.歯肉縁上縁下とわず「1歯1回で」
3.麻酔をしない
を的確に行うために大切なことは
「プラークコントロールが定着し、歯肉(歯周組織)の性状に変化が見られた時」に開始することです。下はその一例。
左:水っぽい歯肉が、右:歯肉が乾いた感じに変化しています。これがルートプレーニング開始の合図。ここにくるまで4ヶ月かかっていますが、こうなるまでブラッシング指導のみ、「縁上のスケーリング」はしないのです。患者さんのモチベーションを持続させることは歯周治療に携わる歯科衛生士の技量(のひとつ)です。
深い骨縁下ポケットを有する重症例で「麻酔をせずに(痛くなく)、1歯1回で(縁上縁下一気に)SRPをする秘訣のひとつは、プラークコントロールを徹底すると歯周組織が変化するときがある、そのときにSRPをすることです。
患者さん自身が治そうとする意思をもつことが何より必要ですが、そうするための術者や担当歯科衛生士のモチベーション力が問われるところです。
歯周組織の炎症の消褪、口唇、舌の力があいまって不整な歯並びが自然移動しています(右下1は抜歯)。
この間約7か月。矯正装置その他は一切使用していません。
患者さんのブラッシングが定着すると歯肉の浮腫が消褪して乾いたように見えるときがあります。歯肉が治りたがっていなときなのです。
このときを逃さず「(縁上縁下をわけず)1歯1回で」「麻酔はせず」確実にルートプレーニングをするのです。その後病的移動していた「67の歯間離開が閉鎖しました。
その間のレントゲンです。骨梁像にも変化がみられます。
歯肉退縮をおこし初診時にはほとんど付着歯肉が喪失していた右下4の辺縁歯肉に注目ください。
’98 ’03 ’08 とフェストゥーンから付着歯肉へと変化しています。
そしてこの間の同部位のデンタルです。
歯槽骨の吸収は停止して骨梁像の変化もみられ安定していることがうかがえます。
すなわち炎症がコントロールされたうえそこに適切な咬合力が加わることで歯周組織は安定した証としてフェストゥーンが付着歯肉へと変化するのではないでしょうか。
50歳代男性。右下3部のみ付着歯肉喪失
歯周外科時、垂直性骨欠損を確認
経過観察。フストゥーンが厚みを増している
’08年、9年経過。歯根膜が喪失している遠心隣接だけは回復しないがそれ以外は付着歯肉に変化。
深いポケットを有する重度歯周病において、術後疼痛や冷水痛などの不快症状がなく良好な治癒に導きそれを再発させない秘訣は、ルートプレーニンングの開始時期にあります。『歯肉がブラッシングによって大きく変化したときに』『ポケット底から歯肉縁までの歯石を一気に』取り去って滑沢な根面に仕上げるのです。
浮腫性の歯肉、全顎にわたりpd8〜10mm、著しい動揺がみられる重症例です。
(下顎前歯部歯肉に注目ください)
初診から7wブラッシング指導のみ。歯肉に変化はみられますが、あえてまだスケーリングはせずもう少し歯肉が変化するのを待ちます。
さらにその3w後。浮腫性の歯肉が乾いた感じに変化しました。歯肉が治ろうとするサインです!この時を見逃さず、ポケット底から縁上まで1歯につき1回でルートプレーニングをします。
1ヶ月後、プロービングデプスは2〜3mmに改善しました。
メインテナンス3年が経過しました。再発もみられず安定しています。
'93初診 左下56欠損
FCKブリッジを形成,セットした。
それから12年後の'05 歯肉疼痛を主訴に再来院。歯肉が5のポンティックにくいこんでいる
'93 と'05のデンタルを比較すると皮質骨が大きくせりあがっていることがわかる。
左:ブリッジ脱離で来院。セメントウオッシュアウトらしい。
'90 ~'00 右下6ポンティック下に著しい皮質骨の造成がみられる
右:ポンティック下の歯肉疼痛を訴える。ポンティック下の骨に伴って歯肉もあがり、ポンティックに強く接するようななったためで、歯間ブラシ不使用による歯肉炎とは異なる。
右下5歯根破折。6ポンティック下皮質骨が造成。
(光弾性実験の写真は「歯科臨床とバイオメカニクス」伊藤秀美訳クインテッセンス出版 より引用)
上記3症例の共通項はクレンチングが強いKr.であること。
ポンティックと支台歯間に応力が加わり続けると、ポンティック下の骨が押され、その結果として皮質骨が造成をきたすことは、バイオメカニクスから説明できそうである。
左上2根尖のxp透過像.エンド病変かペリオ病変かによって処置が異なるだけでなく、誤れば予後が全く変わるはずです。エンドを強く疑うものの原因が見当たらないように思えたので根管治療はせず、スケーリングSRPも一切行わないで自己暗示とスプリントによるブラキシズムのコントロールにつとめました。3ヶ月後レントゲンの比較です。
咬合性外傷が主たる原因だったことがわかりました。