十数年前のこと。腕前には自信をもつ高名な大工さんの棟梁数人が酒の席で「鉋(かんな)の技術(どこまで薄く削れるか)を競おうではないか」「それは面白れ〜」ということになったそうです。それがもとで先輩の技術や技を若い見習いさんたちに学んでもらおうと全国大会に発展したのが「削ろう会」となりました。昨年の優勝者は厚さ4μ(!)だったそうです。今年5/24、25に会場となる伏木勝興寺にはすでに全国から450名の応募がきているそうです。メンバーの中にはその業界での著名人が多く、そこから貪欲に学ぼうという若い大工さんたちが馳せ参じるのです。「臨床歯科を語る会」と同じだなあと思います。
全国レベルでの達人のひとり香川県の棟梁香川氏の「指金の話」と題する講演会が、勝興寺の大改修事業の陣頭指揮をとる田中棟梁の招きで実現しました。
歯科医と大工、業種が異なってもその道の達人と呼ばれるひとには凡庸ではない何か学ぶものがあるはず、と私も聴講してきました。大工さんの技術は法隆寺建立の聖徳太子の時代にまで遡りますが、中国から渡来してきた指金の知恵や技術は日本の伝統技術となって受け継がれているのです。200とおりもの使い方ができる「指金」は超高性能電脳なのですが、即座に平方根√2を知る事ができる内側の目盛りを考案したひとが誰だったかはいまだにわかっていないのだそうです。
講師の香川氏は15歳で見習いとなったいわば叩き上げであり大学でEvidenceとして建築工学を学んだわけではありません。でも経験則ながらその信頼性は厚くこんな大改修工事をまかされるにたるものがあるのでしょう。
この点も歯科臨床と共通するものがあります。
一般の聴講者の後ろで食い入るようにききいる若い職人の必死に学ぼうとしている真剣な眼差しが、(語る会夜の部を彷彿とさせ)印象的でした。